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彼の歪な法則・20

 
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一作目『カレは彼の親友』はここから / 続編『カレのオモテ≒彼の裏』はここから 



彼の歪な法則・20
 
 
 
最後にレイがエイジに逢ったのは2ヶ月前の年末、チヒロを取り戻した翌日の事だった。
あの日も訪れた場所に足を踏み入れれば、エイジがチヒロに手渡した部屋の鍵を、もう二度と接点を持たないという決別の意味も込めて、エイジに突き返した時の情景が蘇ってくる。
顔色一つ変えず、自分の部屋の合鍵を受け取ったエイジ。チヒロとの繋がりが途切れることを、惜しんでいるようにも悲しんでいるようにも見えなかった。
熱くなっていたレイとは対照的に、ムカつきを覚えるほどいつものエイジだった。
おそらく今日もそうなのだろう。

(いた……っ)

ベンチに座って待つエイジの後ろ姿を見たレイは、殺意に近い憎悪の感情が腹の底から突き上げて来るのを感じて、そんな自分に驚く。
感情的になって行動してもロクなことにはならない。
特に、この感情の薄い男相手には絶対に通用しないどころか、自分ばかりが空回りして馬鹿を見るハメになるのは目に見えている。
解っているのに、エイジを目の前にすると、気持ちがグチャグチャに掻き乱されてしまって、冷静さを保つことが思うようにできない。
チヒロが求めるまま朝までチヒロをエイジが抱いていたのかと思うと、頭がおかしくなりそうになる。
レイは目一杯の強がりを発揮して、いつもの調子を意地で繕うと、ベンチに腰掛けているエイジに声を掛けた。

「やっぱ佐々木、律儀だなぁ。
 突然メールしても、必ず俺より先来てる」

ゆっくりと背後に立つレイを振り返り、真っ直ぐ見上げて来たエイジの表情は、相変わらずの仏頂面で、何を考えているのかさっぱり読めないし解らない。
予想した通り、一ミリも揺らぐことのない、レイがよく知るいつも通りのエイジだった。
あっさりとチヒロの心を攫っておいて、一晩中チヒロの身体を好きにしておいて、この反応の薄さかよと思えば、冷めた笑いが込み上げて来る。

だけど、それでいい。
佐々木エイジという男は、そういう男なのだから。
そう思えば、腹の底でドロドロと渦巻いている憎悪も、呑み込まれることなくコントロールできるような気がした。

ベンチから立ち上がろうとしたエイジに「座ってろよ」と声を掛けて、エイジと距離を置き、ベンチに腰掛ける。
右隣にエイジの存在を感じれば、右半身がゾワゾワと粟立つような嫌な感覚に見舞われて、エイジの事を真正面から見据える気にはとてもなれなかった。
前を向いたまま、努めて軽い口調で問い掛ける。

「チヒロ、今、お前んトコに居るんだろ~?」
「……ああ」

解っていたことなのに、エイジの素っ気ない返答が胸に突き刺さる。
やっぱりドア越しに聞いたあの声は、チヒロの声だったのだ。
最後に見たチヒロの真っ赤な顔が浮かべば、やり切れなさを含んだような苦しい感情が膨れ上がって、胸の奥を掻き毟りたくなるような衝動に駆られる。一刹那、声が詰まってしまう。

「やっぱな、じゃねーかと思った。
 最悪~。やーな予感的中しちまったなぁー。
 よーっぽど、お前とのセックスが忘れられなかったって事なんだろうねぇ?
 別に俺、エッチ下手とかじゃねぇのに、自信失くすよ。
 あー、マジ落ちるぅ~」
「……そうか」

ズキズキと胸を刺す鈍い痛みを感じながら、それでも調子を変えずに返せば、ただの負け犬の遠吠えのようにしか聞こえなくて、情けない自分に腹が立つ。
エイジを直視できず逃げている自分にも、苦々しい憤りが込み上げて来る。
負けてたまるかよ。気持ちを奮い立たせて隣のエイジに視線を向ければ、気配を察したエイジもまたレイの方を向き、視線がぶつかった。
表現し難い激情が、身体の奥から突き上げてくる。
顔色一つ変わらないエイジの横っ面を、思いっきり殴りつけてやりたい衝動をギリギリのところで呑み込めば、許容量を超えた熱量を持て余した身体に震えが走った。
思わず本音が零れ落ちる。それは抑えられないレイの後悔の嘆きだった。


「『チヒロを抱いてやって』なんてふざけた事、酔った勢いで言っちまった俺が馬鹿だったわ。
 なんで俺、お前にチヒロを引き合わせたりしたんだろ。
 マジで逢わせんじゃなかった……っ」


宣戦布告をするつもりが、どうして敗北を認めるような発言をしてしまったのか。
零してしまった後に気がついて、耐え難い屈辱感に襲われたレイは、粉々にプライドが砕け散るのを感じて、頭の中を真っ白にする。
後悔塗れの胸の中は、嵐の後のように引っ掻き回されてグチャグチャで、まともに思考が機能してくれない。
エイジを前にしているだけで、これまで無意識に目を背けていた誤った自分の行いの数々が思い出されて、レイの心を重く沈ませていく。このままじゃエイジに勝てないという焦りを生んでいく。

負けたくないのに。
チヒロを譲ってやるつもりなんてないのに。





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