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彼の歪な法則・21

  
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一作目『カレは彼の親友』はここから / 続編『カレのオモテ≒彼の裏』はここから 



彼の歪な法則・21
 
 
 
「話はそれだけか?」

明らかにいつもとは様子の違うレイに対して、だが、エイジが返して来たのは素っ気無い返事だった。まるでレイのことなんて、どうでもいいとでも言うように。
いや実際レイがどうなろうが、エイジは興味も関心もまったく持ってなどいないのだ。
そんな事は誰よりも良く解っていたはずだ。とっくの昔から知っていたはず。
それなのに、何を今さらエイジの平坦な態度に振り回されているのだろうか。

――すげぇ、バカバカしい。

そんな自分に呆れ果てれば、クツクツとした笑いが込み上げて来て、自分でもよく分からないままレイは大声を上げて笑っていた。
何でも自分の思い通りにできると、自信過剰でいられた自分が滑稽でならなかった。
自分の中のルールに縛られて、一番大事なものを見落としていた自分が間抜けでならなかった。

完全に崩壊してしまったレイの法則。
無意味なものに成り変わってしまった、完璧なはずの人生設計。

カナの言った通りだと思った。
思い通りにならなくても、駄目だと解っていても、自分をコントロールできなくなるほど囚われてしまうのが恋だというのなら、レイにとってチヒロは、これまでの価値観をひっくり返してしまうほど特別な人間だったということなのだろう。
だから、チヒロを手放すことなんて考えられないし、傍に居て欲しいとこんなにも切望している。

――マジで何やってんだろ、俺はっ。

レイの人生史上で一番最低でカッコ悪い自分を笑って吹き飛ばし、ベンチから立ち上がって空を仰げば、早春の澄んだ青空が広がっていた。
レイの後輩としてチヒロが入社してきた日も、確かこんな澄んだ空が広がっていたことを思い出せば、『よろしく』と差し出したレイの手を、躊躇いながらそっと握り返して来たチヒロの顔が浮かんでくる。

頬を赤く染め、ハニカムように笑ったチヒロ。
可愛いと思った瞬間から、もしかしたらチヒロへの想いは芽吹いていたのかもしれない。
恋愛対象として惹かれる要素があったのかもしれない。

そんな気がしてくれば、レイは強く思わずにはいられない。
もう自分自身の心を偽ったり、誤魔化したりなんてしたくない。
凝り固まった価値観なんかには縛られず、心が望むままにチヒロが欲しいと求めていきたい。
プライドを捨て、どれほど格好悪くとも、みっともなく足掻いてだって見せる。
エイジに心がない限り、チヒロが望むものを与え続けられない限り、レイにもまだ充分に勝算はあるはずだから。

背後のエイジに意識を集中させれば、背をジリジリと焼かれるような、エイジの強い視線を感じた。
関心なんてなかったはずのレイに対して、エイジが注意を向けているなんて珍しい。覚えたのは小さな違和感。
レイがチヒロに本気になったことを知って、らしくもなくエイジはレイに憐みの感情を抱いているのだろうか?
それとも、乏しい表情の下でチヒロを思い通りにできなかったレイのことを嘲笑っているのだろうか?
どちらにしても、レイがエイジのことを解った気になって、侮っていた事実には変わりない。
だからもう、エイジに心を許したりはしない。絶対に――。

「俺さ、今回のことで、お前って人間のことがよーく解ったよ。
 お前が俺のことをどんな風に見てたのかもさ、ハッキリ解ったわー」
「……そうか」
「お前を信頼した俺が、バカだったって事だろ?
 そう言えばお前さ、俺の事は一度も部屋に入れてくれたことなかったもんな。
 俺の誘いを断りはしないけど、お前の方から連絡くれたことさえ、一度もなかったしな」

解りきった事をあえて言葉にしてエイジに言ったのは、事実を確認するためだった。
確認して、エイジと自分の関係を的確に把握し直すためだった。
だが、言葉にしているうちに、とんでもない事実にレイは行き着いてしまう。
気づいてしまって、違和感が膨れ上がって、ハッと息を呑む。


(……じゃ、佐々木はなんで、チヒロに合鍵なんて渡したんだ?)


エイジは自分のテリトリーの中に踏み込まれることを、頑なに拒絶するような男だ。
レイが知る限り、レイを含めて、誰一人として例外を作ったことはなかったはずだ。身内の人間でさえ、距離を置いていたほどだ。
確か、高校を卒業し、大学進学を切っ掛けに家を出て以来、エイジは一度も帰省したこともなければ、家族と連絡を取っている様子さえなかったはずだ。
家族との繋がりさえ断って、自ら孤独を選び取っていたはず。
そんなエイジだから、生涯誰にも心を許さず、興味も持たず、生きていくものだと思い込んでいた。
勝手にそう結論づけていた……。

ドクドクと、心臓が不吉を感じさせる速いテンポで刻まれていく。
まさかと思いながら、でもエイジに確認せずにはいられなくて、レイは硬くなってしまう声を隠すことができないままエイジに問い掛けていた。


「……お前にとって、そんなにチヒロは特別?」


訊きながら、動揺のあまりに拳を強く握りしめていた。爪が掌に食い込むほどに強く。
人との繋がりに関心のないはずのエイジが、チヒロに特別な感情を抱いていたとしたら?
その意味を知ってしまうのを、レイは身の毛がよだつほど恐ろしいと感じた。




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Comments 2

葵 しずく
葵 しずく  
拍手コメお返事

qさま>

拍手、コメントありがとうございます!
返事が遅れてしまい、申し訳ありません。

コメント、嬉しく思いながら拝見させて頂きました!
こちらは過去にアップしたものを加筆修正し再更新したものとなりますが、楽しんで頂けているのなら、これ以上嬉しいことはありません。
レイ編はあと数話で完結しますが、まだ先がありますので、よろしければお付き合いください。

2021/08/25 (Wed) 09:27 | EDIT | 葵 しずくさん">REPLY |   
葵 しずく  
拍手コメお返事

鍵コメKさま>

はい、やっとここまで来ました~。
あと数話で完結です。どうぞ最後までよろしくお願いします!

そうですね。レイはエイジのことをまだまだ解ってないですよね……。
チヒロを通じて、エイジとも向き合わなければならなくなったので、これからもっとエイジのことを知っていくことになるのでしょうけど。

カナはレイのことを誰より理解してますし、レイもカナのことは認めているので、カナとだったら間違いなく上手くいくんだろうなぁと私も思います。
でも、気持ちはチヒロに向かってますので、やっぱり簡単には引き下がってはくれないでしょうね。

拍手、コメントありがとうございました(*^▽^*)
 
 

2013/05/25 (Sat) 06:05 | EDIT | REPLY |   

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