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カレと彼の罪と罰 ―覚醒― (40)

 
 
一話目から読む / カレ彼シリーズ目次はここから
 

 
(――レイ、今ナニヲシタ?)


松谷が見ているのに、チヒロも恥ずかしいと言っているというのに、流石はレイと言うべきか。まるで意に介す様子なんてない。恐ろしいほどのマイペース振りに、唖然としたチヒロの動きが止まる。
数秒で我に返れば、火照りを通り越した全身が、一気に沸いたように熱くなっていく。
チヒロはレイにキスされた首筋辺りを抑えながら、抗議の声を上げた。


「れ、レイッ!?」
「だってさー、恥ずかしがってるお前って珍しーじゃん?
 なんかすげぇかわいーし、つい構いたくなんだろ?」
「…か、可愛くなんてないしっ」
「そんな顔真っ赤にして、狼狽えちゃって、バカみてぇにかわいーよ」
「か、揶揄ってんのっ?」
「揶揄ってなんかねぇよ?
 バカみてぇにかわいー恋人を構わずにはいられねぇだけ」


これを揶揄ってないと言うのなら、馬鹿みたいなのはレイの方だ。
二人の時に限らず、隙あらば熱の籠った目で、歯が浮くような甘い言葉で、チヒロを誘惑して。
レイと縒りを戻してからは、レイが誰よりも自分を想っていてくれることなんて、もう充分過ぎるほど伝わっているというのに。
レイの本気を少しも疑う気が起きないほど、思い知っているというのに。


「……なんかもう、主任がゲロ甘過ぎて、胸焼け起しそーなんすけど。
 つーか、ゲボ吐きそうっす」


溜息交じりに零した松谷に意識を戻せば、心底脱力した様子だった。その顔にはお手上げ状態と書かれてある。
チヒロも松谷と同じ心境だった。本気のレイにはまるで敵う気がしない。無敵だとすら思えてしまう。
二人の顔から、降参の気持ちなんて読み取っているはずなのに、レイは惚けた顔をして白々しく続けた。


「お前、ウチのが作ったヤツ食いながら、吐くとか言うなよなー」
「違うっすよ!紺道さんが作ってくれた手料理は、ほっぺた落っこちるほど旨いっす!
 つーか、何なんすかっ!?この新婚家庭に迷い込んだ、この居た堪れない感じっ!
 主任『ウチの』とか言っちゃってるしっ。マジで俺ゲボ吐きそっ」
「ま、実際そんなんじゃねぇの?新婚1ヵ月とか、こんなモンだろ」
「あー、ねぇー。新婚1ヵ月ねぇー。
 そうっすねー。じゃあ、主任が浮かれてハイになるのも、仕方無いっすよねー……」


しゃあしゃあと惚気続けてみせたレイを前に、とうとう言い返す気力を完全に喪失した様子の松谷が、遠い目をしてどこかを見ている。
なるほど。レイは新婚気分でいたのか。だから平然と惚気けられるのか。新婚……。
胸のむず痒さと面映ゆさが最高潮まで達したチヒロは、とてつもない居た堪れなさに耐えることになった。


「……紺道さん、ビールもう一本もらっても、イイっすか?
 もー飲まないとやってらんねぇんでっ」
「…あ、うん」


遠い目のままの松谷に頼まれて、正直チヒロはホッとする。この場を一旦離れられる口実ができたことは有り難かった。
これで多少は自分も落ち着きを取り戻せるだろうし、このおかしな空気感も変わるだろう。
「レイもかな?お代わりいる?」と、背後のレイを振り返り、立ち上がろうとして片手をテーブルに付いた。…が、伸びてきたレイの手がチヒロの肩に置かれて、引き留められてしまう。
困惑しながらレイの顔を見詰めると、ソファーから立ち上がりながらレイが言った。


「あー、いいよ。俺取って来るわ」
「え!?いいいよっ。俺行くし」
「いいって。トイレのついで」


『ついで』と言われてしまえば、それ以上自分が行くとは言えず、チヒロをその場に押し留め、頭を一撫でしてから席を離れたレイを見送ることしかできなかった。
レイの背中がドアの外へ消えるまで見ていると、同じようにレイの背中を見ていた松谷が「はぁ~」と深い溜息を零している。
溜息に引き寄せられるように松谷を見れば、松谷と目が合ってしまって、何となくお互い気まずさを感じてしまう。流れていったのは奇妙な沈黙。
いつもは空気を読まず、思ったままを何でも口にする松谷も、珍しく黙り込んでいるものだから、余計に妙な空気感になってしまっている。とてつもなく居心地が悪い。
チヒロはこの気まずさを払拭したくて、当たり障りのない話題を探して松谷に振ってみた。


「…あー、あのさ、松谷とレイ、いつの間にそんな親しくなってたわけ?」
「え?親しいっすか?俺が一方的に迫害受けてんの、見てわかんねぇっすか?」
「迫害って、お前……、ま、確かに一見扱い雑だけど、こんな素のレイって珍しいから……」
「そっすねー。職場で見てる限りっすけど、主任、誰の前でもスマートでソツのねぇ感じっすもんねー。
 ムカつく相手前にしても、ソレ、顔とか態度にぜってぇ出したりしねぇし、素で接してるのって紺道さんと俺くらいっすかね?
 主任て、自分が好きな人間ほど、振り回したくなっちゃう面倒なタイプなんすよねー」


苦し紛れに振った話題だったが、気になっていた疑問でもあったので、チヒロは興味深く思いながら松谷の話を聞いていた。
レイの事を語る松谷の顔を窺うように見れば、呆れながらも笑顔を浮かべていて、(あれ?)と思う。
その松谷の表情に感じ取ったのは、レイと松谷の信頼関係で結ばれた強い絆だ。
何だかんだ文句を言いながらも、松谷はレイがすること全部を受け入れている。
あのレイがすることだからと、苦笑しながら許している。

あのレイが素の自分を包み隠さず松谷には曝しているのだから、それは不思議な事ではないのだろうけど……。





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